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57章 居候の作り方




俺のそう広くはない部屋には俺と一緒に客が二人いた。
んーとなあ、キュラとこいつをうちまで連れてきたは良いんだ。良いんだけどさ。
おふくろと親父に何て言って誤魔化しゃ良いんだ?
脳味噌ないないと、いっつも清海たちに言われている俺の脳で一応は考えてみたんだ。
友達だから今日泊めてやってくれっつっても、そりゃ一日くらいならどうってことねえとは思う、けど。
だけど、そう何日も泊められるもんじゃねえだろ? そこが一番難題、だよなあ……。
外国からいきなり訪ねて来た、って少々真実味のありそうな話したらどうだかな。
……けどなあ、うちのおふくろも親父も勘が良い。今まで俺がついた嘘は通せた記憶が俺には無い。
となると、あー……っと。かくまうとか言うんだったか? そういう風にすっかな。ドラえもんみてーに押入ん中に入れとくとか。

ぐるりと自分の部屋を見回した。こいつらが入れそうな場所、クローゼット以外なし。

俺の部屋に、和風な押し入れはなかった。しかも、洋風のクローゼットは縦長。キュラにしてもこいつにしても横にはなれない。
……、……、……。うああ、マジでどうすりゃ良いのかわかんねぇ。頭の使いすぎで知恵熱が出そうな五秒前!
清海とレリは勢いで決めるしなあ、美紀はときどき考えずに言っちまう癖あったよなー。忘れてたぜ。
まあ、俺も勢いで話に乗っちまったけど。けど自分のことをそれでバカとは思わない。思ったら負けだ、きっと。
こいつら二人をほっとくわけにはいかないだろ。で、鈴実は何も言わなかったし。
んーいや、鈴実が何も言わないってことは問題ないのか? 俺でも何とかできるって考えたのか。
あーでもなあ、鈴実は興味のない話は自動的に受け付けないバリアーみたいなの常に展開中だしな。聞いてすらなかったんじゃ。

『ピーンポーン』

一階から呼び鈴の鳴る音がした。その音に部屋にいる二人が何事かといった様子で反応した。
「ん、来客か。……あ、これ客が来たって合図だ。気にすんな」
「変わった呼び鈴だね」
「そうか? ……あ、そういや今はおふくろ、いないんだ。俺、出てくる」
今、家の中には俺しとこいつらかいない。
だからこの二人を家にあがらせるのに問題なかったんだった。
それにしても、この二人。なんか喋らねえよなー、うちに来てから。



「よっ、靖。お前って今ヒマか?」
出てみると、玄関先にいたのは悠斗だった。久しぶりに顔を見た気がする。
そういやこいつ、なんでか、四月の三連休の後から学校休んでたよな。何かあったのか。
いや、本当は異世界にいた間のことを俺は知らないから、そうじゃねえのかもしれな……いや、違う?
鈴実が異世界にいた時の時間は今回、巻き戻されてるとか言っていたような。
あー、まあいいか、そんな面倒くさいことは。んなもの、頭脳派の鈴実や美紀に任せておけば良いんだ。
「とかいいつつ、あがってんじゃん。お前」
「だってどうせお前、ヒマだろ? こうして家に居んだから」
いつの間にか悠斗は俺の横をすり抜け、ちゃっかり玄関にまで上がっていた。
お前はほんとにいつ上がったんだ。将来はアサシンかトレジャーハンターにでもなるつもりか。
しかも靴を行儀よく並べてるあたりが、なんか見ててバカにされるような気がする。
「お前はな靖、頭を使ってたら隙が出来やすいんだよ」
「んなっ。おい、どういうことだよそれ」
「そんなんじゃ剣道部のレギュラーから落ちる、って話だ」
「うぐぐ……やなとこ突くなよ」
「心配すんな。お前が落ちたら俺が代わりに立ってやるさ」
「悠斗は大将だろっ」
「ああ。で、お前は俺の次だな。ガンバレフクショー」
悠斗はそう言いながら当然のように長くもない廊下道を消化して階段を上る。俺はその後に続くようにして部屋に戻る。
こいつとは小さい頃からの付き合いだから家のことはよく知ってる。迷いもなく奥へ突き進……んんっ!?
待てよ今、俺の部屋にはあの二人がいるんだ。……こいつにあいつらを目撃されても困るんじゃないのか、俺。
気づいたとき遅し。悠斗は既に俺の部屋のドアノブに手をかけていた。
「どうした、靖。階段で固まるなよ、金縛りでもくらったか?」
そう言いつつ悠斗の手はドアノブを回していて、ドアは開いてしまった。
うげげげげっ。あー、キュラとか突然現れた悠斗のこと見てぽかんとしてっし。
俺の部屋に一歩入ったところで、悠斗も部屋の大部分を占めてるキュラたちに気づいた。
「あっちゃー、十分もせずにバレたー。うわー、サイアク」
「あ? おい、この二人は誰なんだ?」
親兄弟にばれるより先に、悠斗にばれちまった。
こいつの性格からして、絶っっ対に俺が隠したくてもうちの親に暴露しちまうって。
マジでどうするよ俺。押入れ作戦は実行前から敗北必至なのか?



「ほうほう。つまり、こいつらは異界からやって来た、と」
「え、お前信じるのか? そんなにあっさり……」
「そんなわけあるか阿呆」
「あ、やっぱそう思うか」
こいつはそう言うだろうと思った。あっさり信じられてもなんか、困る。
俺の部屋には俺と来客三人。縦横かけて10平方メートルくらいしかなさそうなこの部屋に。
とりあえず悠斗相手にもまともにも誤魔化せそうな自信はなかったからな。
この際、と割り切ってこいつら異世界から来たんだと言ってみた。
「このバカは……んで、こいつらお前の知り合いなんだよな。それは確実だな?」
「ああ。けど、どうやっておふくろに言い訳すりゃ良いのかと思ってんだ」
「そうか。別に、お前の知り合いならそう言って無理を通せば良いだろ。ていうか押し通せ」
ただし、その言葉の前に異世界から来たっつーのはつけるなと悠斗は言った。
とりあえずこいつは冗談だと思ってるらしい。俺は魔法とか魔物なんて話はしなかったし。
いやうん、さすがに俺の脳みそがいくら軽かろうとそれくらいの状況判断はできる。
俺の事情を察してくれたのか、キュラたちも途中でそういう単語を挟んだりしなかったのもあるけど。
「外人だからって躊躇すんな、その躊躇が誤解を呼んでまた別の誤解を呼ぶ」
「いや、お前のそういうとこはわけわかんねえから飛ばしてくれ」
こいつは頭良いんだ。でも、ときどきこいつの言ってることがわからない時もある。
「まったく。隠すのが無理なら言いたいことを言えよ」
「言いたいこと、つったらこいつらを無期限で泊めさせてくれって……そんだけ」
「ならそう言えば良いだろ。なんでバカはわざわざ、ない脳みそ使おうとするかねー」
「わるかったな、脳みそがなくて」
そうぼそっと呟いた俺のことなんて余所に。悠斗はで、と話を他の二人に振る。
「あんたら、名前は? 俺は萩原悠斗だ」
「キュラ・ブラッティス」
「レイ・イシャル」
「はいはい、キュラとレイね。流暢そうな日本語の発音だ、日常会話に問題はなさそうだな」
そういえば、こいつが俺の部屋にはいってから話がこいつ中心に進んでる……よな、思えば。
いつもは話し合いなんかあっても、クラスの人間に任せてて自分じゃ何も言わないのに。
「靖、お前が心配しなくともこいつらなら大丈夫だ」
俺の方を向いて肩をぽんと軽く叩いて悠斗は言った。イヤマテ、なんだよその目は。
「なんで俺の肩を叩くんだ?」
「この二人はお前よかよっぽど頭良いだろうよ」
「おまっ……それが小さいころからのダチに言う言葉か?」
「本当のことを言うまでだ。オレ、ウソツカナイ」
「ひでっ。だいたいさー、なんで悠斗が話のまとめ役なんだよ」
「……俺以外に出来るのがいるか? お前相手に」

ポン、ポン、ポン……。チーン。
木魚を三回叩く音が空耳で聞こえたような。ついでに、トライアングルも。
その一言に、三分間くらい思考停止に陥った俺がいた。

はああーっ? さっきの話の相手は俺じゃないだろ。どういうことだ?
わからない、という顔の俺に悠斗は盛大なため息をついて、口を開いた。
「これだから靖はバカだっつーんだよ」
わけがわからねえけど、とりあえずそう言われたら否定しとく。認めたら負けだ、絶対。
「バカじゃねぇよ」
悠斗はああそうかい、と言って近くに転がってた漫画を読み始めた。
部屋の主であるはずの俺の視線も気にせず、ましてや居候候補の二人になんて目もくれず。
おいまさかお前、ひとんちに来た理由は漫画を読むためなのか。数週間前の週刊誌とか自分の近くに引き寄せてるし。
「いや、お前ちゃんと人の話きけよ」
「だったら客に茶くらいだせ。あと、何こいつら二人につったたせてんだよ」
「あ。二人とも適当なとこに座ってていいぞ、ベッドの上でも椅子でも」
そう言い、俺は飲み物を取りに部屋の外へ飛び出た。そして、気づく。また悠斗の言う通りに動いてるぞ、おい俺ぇ!
毎度毎度あいつの指示するとおり、動いているような気はしてたけど……今回は特に酷くないか。
俺の話きけよっつてるのに無視して茶を出せって、どんだけ態度でかい客だよ!?
そうは思ったが今部屋に戻っても間が悪いよな。ジュース、もってくるか。
なんだかんだ言ってもしょうがねえよな、きっと。言うことの筋は通ってるんだし。なんか悔しいけど。





悠斗が日も暮れないうちに帰って、それと入れ違いに親が帰ってきた。弟二人を連れて。
もう、腹を括って本当のことを話すしか。結局、二人を隠し通せるような空間、うちにはなかったし。
俺の頼みにおふくろと親父は、かなり意外なことに了承してくれた。
いや、実際はいろいろ聞かれてぎくぎくした。だけど、結果的にはオッケーをもらえた。
ほんとに悠斗のいうことに従ったら間違いってのがない。なんでだ、わかんねぇ……同じ剣道部なのに。
で、話し合いの結果。キュラとレイは普段は寝床になってない、和室に寝ることになった。いわゆる客間だ。
おふくろはどこから出したのか、きっちり二人分の布団もすぐに用意を済ませた。ちゃんと清潔なやつ。
昨日まではその部屋の押入れには入ってなかったのに。弟二人の遊び場になるから、うちに物はあんまりないんだけどな?
用意が良いな、うちのおふくろって何事にも。まあ助かるから良いんだけどさ。
それなら俺が試合のたびに弁当を忘れる癖もうまいことカバーしてくれないかな、おふくろ。

まあ、それから一時間くらいして晩飯が出来た。母さんは弟たちに遊ぶのを止めて席に着くよう促してるところ。
俺も二人に知らようと和室へ行ったら、キュラはいたけどレイはいない。
んで、部屋にいるキュラは正座していた。金髪が日本の畳でそれやってるってラストサムライかってツッコミたくなるなー。
いや羨ましい話、サマになってんなあと思ったんだけどストレートに教えるんのハズイし。
おふくろに教えてもらったことを早速してるらしい。単なる正座じゃなく、座禅。
なんかそのせいか、和室の中だけは空気が違うような気がする。キュラがやってるからか?
「キュラ、レイは?」
部屋のどこを見渡してもいない。俺は部屋の隅に目を向けた。その先には押入がある。
押入には2人の布団が入ってて、さらにはレイの剣が隠されてるのを知ってるのは俺らだけ。
俺も異世界行った時に剣買ったけど、それは比良って人に預けた。鈴実がそうしろって言ったから。
……まさか、ドラえもんみたいに押入に入って寝てるって事はないよな?
「彼なら、きっとまだ屋根の上にいるよ」
姿勢はそのままに、目を開かずに言う。いっつも笑った顔してるから目開けてることのほうが元々少ないけどな。
「屋根の上? ここ一階だぞ?」
二階にある部屋なら、屋根の上に行くのは簡単だ。二階の部屋の窓から楽々と一階の屋根に渡れる。
けど、この部屋は一階にある。どうやって屋根上るんだ? うちにも梯子はあるこたあるけど。
物置は鍵かかってるから父さんに言わなきゃ出せないはずなんだが。
「彼にとっては簡単な事だよ。とても」
「ふーん……と、あ。そうだ、晩飯出来てるんだ。キュラも来いよ」
一階から梯子なしで屋根に上れんのか、レイは。すげえな。
とりあえず俺は梯子がないと屋根には上れない。
だからレイには屋根に向かって晩飯っ、と叫んでおいた。

でも、キュラが座禅を崩して、俺と一緒に居間で晩飯を食ってる間にもレイは来なかった。






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ネタ修正。 靖はおばかなので、知恵熱の正しい意味を知らずに使ってます。 本来は頭を使うからって理由からじゃなく、小児特有の発熱だとか。 まあ単純に勉強ができるできないってだけの話じゃないんですけどね、おばか定義は。